■ 福島県喜多方市
- 蔵の町、喜多方 -
2011年3月11日(金)14時46分。美しい北国が突然、大きな災厄に襲われた。多くの町が復興に全力を尽くす中、風評被害や自粛が復興の気力を削ぐ二次災害となっている。募金や物資提供だけでなく、ボランティアが出来ないかと考えた。けれど、野営装備もなければ現地での食料調達も出来ない自分は、自己完結が求められるボランティアにはとても参加できない。ならばせめて東北を観光して協力しようと考えた。旅先に選んだ町は喜多方。原発災害の風評で観光が打撃を受けていると言う。喜多方は福島第一原発から100kmも離れているにもかかわらず、「福島県」というだけで危険なイメージを持たれてしまっているそうだ。それが風評に過ぎないことは地図を見れば一目瞭然。全く心配などせず、ラーメン目指して出掛けてみた。
喜多方に着いたのは朝8時半。早朝営業のラーメン店は営業を始めている。早速、車に積んだ折りたたみ自転車を組み立てて、町に繰り出した。
- 坂内食堂 -
まず目指したのは、喜多方ラーメンの代名詞とも言える「坂内食堂」。東京を中心にチェーン展開する(株)麺食がブランドとしていることでも有名だ。新宿にも店があるので、坂内の味は知っているけれど、その元となったラーメンを食べてみたいと思っていた。店に着いたのは9時前だったけれど、7時開店なので既に30人以上の行列。ゴールデンウィークだし多少の行列は覚悟の上、最後尾に並ぶ。
- 坂内食堂 -
行列の先頭にたどり着いたのは、約45分後。行列から見た厨房には、見慣れたTシャツを着た店員が休む間もなく次々とラーメンを仕込んでいた。ここへきても入店までにはまだまだ時間がかかりそうだ。空腹を我慢してもうしばらく待つ。そして約1時間後、ようやく入店。そして店内行列を待つこと10分。待ちに待った順番が来た。
- 坂内食堂 肉そば(並盛) -
注文は名物「肉そば」。チャーシューが丼を覆いつくし、麺が見えない。気のせいかもしれないが、肉の量がチェーン店よりも多いように思える。麺やスープは普段のものよりも手作り感を感じる。よく行く新宿の店でもチャーシューは手作りしているし、この店でも麺は工場から仕入れているようなので、違いはスープかと思う。店では兄弟と思われる職人さんが色々仕込みをしている。やっぱりオリジナルにはオリジナルなりの特徴があると感じた。
- まるや -
次に訪ねた店は「まるや」。パンフレットによると、まるやの創業は昭和29年。半世紀以上営業しているラーメン屋の味を堪能してみたいと思った。この店は10時半開店。先ほどのラーメンがまだ腹に残っているけれど、混雑することが分かっているし、開店前のちょうど良い時間なので、連続訪問することにした。
- まるや -
まるやを選んだ理由は、昭和29年創業であることと、店構えを見て人気店だと直感したから。後から調べて知ったことだが、この店の店主は喜多方ラーメンをブランド化した「喜多方 老麺会」の初代会長との事。
待つこと10分。先に並んでいた家族の次に入店。早速中華そばを注文する。
- まるや 中華そば(並盛) -
注文して5分。供された丼の中身は、昔ながらの中華そばを思わせる組み合わせ。もちろんバラチャーシューたっぷりと中太ちぢれ麺は喜多方ラーメンの特徴。透明なスープは昔懐かしい中華そばそのものの味と香り。私の好きなラーメンに言える事だが、スープそのままでは滑らかな味、そして胡椒を少々振ると切れが増して中華風味が一気に強まる。香辛料は邪道と言う人がいるけれど、テーブルに置いているのだから、使って楽しむのも良いと思う。最近のラーメンには珍しいナルトが入っているのせいか、郷愁を感じさせる味だった。
- あべ食堂 -
さすがに3軒連続は少々辛いので、次の店を訪ねる前に1時間ほど喜多方の町を撮影して回った。そして訪ねた「あべ食堂」。早朝営業=老舗店のイメージで選んだ店だ。行列に並んだのは12時ごろ。店の前には30人程の行列が出来ていた。7時半の開店直後であれば並ばずに済んだのかもしれないけれど、まぁそれは仕方がない。ちょっと我慢して再度待つこととした。
- 山口製菓本店 -
あべ食堂に並んでいると、おかしな看板が目に入った。「おみやげは贈って笑われる毒りんごサブレー」、「まずいパン あります」。そういえばこの店をテレビで見たことがある。山口製菓本店はこういった面白いお菓子を扱っているとの事で、ちょっと有名らしい。お土産に・・・と思ったけれど、ちょっと気が引けてしまった。実は隣ではラーメンも扱っているらしい。こちらは正統派の喜多方ラーメンなのだろうか?
- あべ食堂 -
山口製菓の看板を読みながら、あべ食堂の行列を待つ。扉越しに聞こえる「いらっしゃいませー!」「ありがとうございましたー!」の声に期待が高まる。そして時折、行列に割り込んで店に入る卸業者の姿を見て、彼らと肩が触れ合うと、東京の小洒落た店にはない小規模店舗の息吹を感じる。
- あべ食堂 中華そば(並盛) -
メニューは連休対応で、ラーメン1種、ライス、ドリンクのみ。本来のメニューを知りたいところだが、今日はラーメンで攻めるので、問題ない。迷わず中華そばを注文。どうも無料でネギ増、油増も頼めるようだ。
私は普通の中華そば。スープは少々濁りがあり、やや干物の香りが強いが、上品な味付け。ネギの風味で味がしまる。麺はまるやと同じような食感なので、もしかしたら同じ製麺所のものかもしれない。全体的には、さっぱり系の和風ラーメンが好きな人には飽きの来ない味だろう。とはいえ、3杯目ともなると味覚が麻痺してきてしまう。まだまだ店を回れる時間だけど、今日はこのくらいでやめておこう。
- まこと食堂 -
翌朝訪ねた店は「まこと食堂(満古登食堂)」。喜多方ラーメンが全国に知れ渡るきっかけになった店だ。以前喜多方を訪ねたとき、ものすごい行列が出来ていたので、今回は開店時間などを調べて、行列に並ばずに入店できるよう、万全を尽くして挑戦することにした。昨日の下見でも案の定、100人を超える行列が出来ていた。これでも普段の休日よりは少ないらしい。とにかく行列が出来る前に並ぶ、それしかない。
- まこと食堂 -
店の前には開店の30分前、朝6時半に到着。行列こそできていなかったが、店の駐車場や路上には全国各地のナンバーの車が並び、行列を作るタイミングを見計らっている。席数は56。それでも最初のロットで食べられるのは10番以内だろう。私も店の前にすぐに行ける所に自転車を置き、スタンバイする。
- まこと食堂 ・・・昨日の様子 -
ちなみに、昨日の行列はこんな感じで。写っている人は50人ぐらいですが、写っていないところに同じぐらいの数の人が並んでいました。いやはや、人気店は本当に凄い。
- まこと食堂 -
6時50分、どこからともなく一人の男性が現れ、店の前に立つ。すると、待ち構えていた各車から一斉に人が降り立ち、店に向かい始めた。私も遅れじと行列に並び、3番目の好位置を確保した。行列の人々が店の格子戸に影を落とす。朝からラーメンを食べる習慣のある町はいくつか聴いたことがあるけれど、朝7時の開店前に行列が出来るラーメン店など、全国的にも珍しいだろう。
- まこと食堂 中華そば(並盛) -
入店すると、後からの客で瞬く間に店が一杯になった。けれど、3番目の入店だったので、最初のロットで中華そばが供された。常連さんと思しき客には、皿盛りの輪ネギが供されていたが、一見にはそういったサービスはない。
ラーメンのほうは、スープの油膜が厚くすごく熱い。雪国のラーメンの特徴だ。そして節の香りと食感のようなものが残るが、やや薄味。これは独特の味だと思う。麺は中太縮れでそのスープを油ごとまとい、熱々のまま口に入る。メンマは塩辛く、スープの薄味を補完しているようにも感じる。全体的にはさらりとした印象のラーメンだった。
- まこと食堂 ソースカツ丼 -
ソースカツ丼は会津の名物?のようなので、ついでに頼んでみた。かつは手作りで素朴な美味さ。刻みキャベツとソースをからめて食べると、懐かしい昔のとんかつの味がした。しかし、これ、ラーメンと一緒に食べるものではない。ご飯は大盛りで、さらにラーメンと同じサイズの丼で、ラーメンスープがついてくる。しかもメンマたっぷり。まさかこんなスープがついてくるとは、想定外。普通の食事時に単品ならばボリュームたっぷりでうれしい・・・が。ラーメンもカツ丼も美味しいけれど、入店チャンスが少ないとの理由で同時注文すると、その後は1食抜いてもまだ腹に残るほどの量になってしまう。
- 大和川酒造 -
もう少しラーメンを食べたかったけれど、2日で4杯+αはちょっと多過ぎたかもしれない。まだ訪問していない有名店は次回の楽しみに、帰宅することに。私は普段の旅行では、自分用の土産をまず買わない主義なのだが、今回は折角なので地酒を買うことにした。ホテルの裏にたまたま見つけた「大和川酒造」で、蔵の主力銘柄「弥右衛門」の純米酒(旨口)と本醸造酒(辛口)を購入。自社農園の米で作った喜多方の地酒。東京に帰ったら、東北の物産展を回って、宮城か岩手の名産の肴を探して、この酒に合わせてみようかと思っている。